僕らのノンフィクション(祝辞)

2017年の夏も、こんな風にどうしようもなく夏だった。

 

冗談のような青い空と太陽が上空に鎮座し、ギラギラという音すら聴こえてきそうだ。一方で昼中を少しすぎた道路に人はまばらで、存外シン、としている。夏の盛りに自分が感じるのは、これから始まるひと夏の大冒険……ではなく「物語の終わり」である。それは単に部活動やサークル活動を終えて迎える季節というのもあるが、この静かさによるのだろう。

 

その頃の僕たちは大学の前に違法駐輪をした自転車を撤去されているような若者で、その日も夜深くまで酒を飲んでいた。

日付が回ってそれなりに時間が経ってから町を貫く大通りを歩いていると、どうやら彼が僕にどうしても見せたいアニメ映画があるというので(こんなことばかりなのだ!)、我が屋の205号室に転がりむ。吉浦康裕監督のその作品は、それはそれは素晴らしいもので、僕はまた自分の人生が変わったような、あの素晴らしい感覚に浸ることになる。

これは大変なことになったぞとはしゃぐ僕たちは、それぞれの自宅に帰って一睡を挟んだあと、万全の状態で翌朝また我が家で落ち合い、同じ監督の前作を観る。これは明らかに昨晩の一作の方が面白い。いやしかし、といつもながらの話をするが、まだ朝方なのだ!──それも、夏休みの!

 

何やらなんでもできるような気分になると、撤去された自転車のことを思い出した。いざ回収へ! 炎天下を歩くこと1時間強の長い道。何を話したのか、話していないのか、今となっては全く思い出せない。

撤去自転車の置き場にはちょっと驚くくらいの自転車が並んでいた。その時間に引き取りに来たのは僕たち二人と、もう一人たいへん端正な美少女で、「こんな女の子も、自転車を撤去されるのだ!」と僕たちは興奮していたりもした。

だらだらと歩いたはずの道も、自転車ではあっという間。軽快に駅前へと舞い戻る。これは景気の良い昼飯でも食わねばだろうと、ひいきのラーメン屋へ。その日の冷やし煮干しラーメンより美味いラーメンに、僕はまだありつけたことがない。腹が膨れた我々は「じゃ、また」と気の抜けた挨拶をして帰路についた。14時くらいだった。

 

他人の細やかな思い出話ほど、聞いてどうしようもないものはないのだけど。この日のことは、他人に語りたい特別なイベントでは全くない。ただし掃いて捨てるような日常というには、あまりに自分の記憶の中で輝きを放っている。

 

きっとこんな、特別に輝いたありふれた日常が、彼と彼女の二人にこれから何度も訪れるのだろう。そういう人たちなのだと、自分はよく知っているのだ!

どうかその尊い時間の一分一秒とも、何者かに脅かされませんように。(そして無数に訪れるその時間の、何掴みかには僕もいますように)

 

結婚おめでとう! やってやったな。

 

***

 

2023年7月23日。

 

どうしようもなく夏な結婚式場への道中で、そんなことを思っていた。もし突然祝辞を話すことになったらこれだ、と思っていたが……我に帰ると話さずに済んでよかった。他人の思い出話ほど、というにも程がある。

 

そんなことはさておき、

素晴らしい結婚式だった!!

 

私は結婚式一般を、たぶんあまり信用していない。お約束には嘘が混じる。だって、お約束を考えたのは君じゃないから。誰かの考えたフォーマットと君の感性にはズレがあって、無自覚でもそこに雑味が加わる。

だからこそ自分たちの結婚式は「自分たちが決めて、創る」ことが本質だと考えていた。面白おかしみ、というのは単に結果で、重要なのはフォーマットを離れて自分たちがあの場で見せたい自分たちを真面目に考えたらああなった、ということになる。

(自分の式のことを特に書いていなかったけど)

 

さて彼らの式はとってもちゃんと、結婚式らしい結婚式だった。なのになぜこんなに私が感動しているのかは、きっと同席した自分の隣人の言葉が正しくて。「『結婚式』というものが、この二人のために生み出されたかのよう」だったから、と言うしかない。

 

ファーストバイトなんてことをやるのは、くだらないと笑われるくらいの、とびきりの幸福を見せるためなのかもしれない。

どこの誰かも知らない神に何かを祈るのは、あの日僕らが二人の幸福を願う気持ちはとても強くて、ちょっと他人とか超常の力も介するのも悪くないくらいだからなのかもしれない。

 

考えてみると特段、友達の幸せを願うということを意識して日々を過ごすことはない。が、あの日の自分は「ああどうか、本当に、幸せでいてくれ!」という心持ちでいっぱいで。

きっとずっと心中では思っていたから、例えば別に俺の関係ない彼の仕事の話に喜べたりするのだけど。ああそうなのだなあ、とあの日に初めて分からせてもらった気がする。

幸福を心から願うために、結婚式があるんだな。そして、そんな結婚式というものに、少なくとも俺にとっては最も相応しい二人だったんだな。

なんというかそういう、何か一つ答えみたいなものを見つけて帰った日だったのでした。

 

大事なことを書いたようで、特に書きたかったことは書けていない気がする。あるいは答えを急いで、ちょっとチープなことを書いてしまった気もする。新しい人生の宿題が出てきてしまって困った! ひとまず筆を置くことにする。

 

形ないもの、例えば愛もそうなのかもな。それらについて考える僕らの日々は続く。きっと、思っていたより幸福に。

 

ではまた。

 

https://youtu.be/bbr60I0u2Ng