みなさん、さようなら(引越し雑記)

2020年12月13日、2年と8ヶ月住んだ上板橋から引越しをした。同時に、6年と8ヶ月に渡るひとり暮らしの時代が終わった。

実のところ未だ気持ちは「てんやわんや」の真っ最中で、感慨モードには当面なりそうにない。新居も引越し当日にスパッと完成系を迎えればいいのだが、現状カーテンのない部屋で仕事をして、新しい食卓を待ちながら食事をとり、ベッドフレームが無く床に直置きのマットレスで眠りについているような本日だ。「生活」というやつのこういう、ずるずるとしたところが気に食わない(もちろん、完成系を迎えていない責任は多分に僕にある)

 

今回の転居に際して、おおいに物を捨てた。45リットルのゴミ袋で10枚程度と、段ボールで3箱くらい、それと粗大ゴミが10点強。これほどのものを抱えて生きていることにも、これだけのものを捨てても何ら問題なく回る日々にも驚く。

処分作業で一番楽しかったのは「人生ゲーム」だろうか。ひとり暮らしを始める時に高校の部活仲間に貰った品で、そう考えるとなんとも薄情な話だ。大量の人間と紙幣と約束手形をゴミ袋に投げ込み、あれほど苦心して買い集める高級物件を一絡げに鷲掴み、天命を司るルーレットをむしりとり、しまいに母なる大地をハサミで切り刻む。背徳感で脳がチカチカする悪魔のあそび。こんな暗い人間を作るのだから、独居なぞしないほうがいい。

ほか、高校時代に好んで着ていた青いコートや、卒業式で付けた水玉のネクタイ(ひどいセンスだ)などが手元を離れた。ほんとうに残念なことに、当時の私を思い出して愛おしむ手がかりがまた減り、高校生の私が少し死に近づく。ただ、こうして綴られるかぎりは完全な死も迎えないとも思う。

 

上板橋で通った店々の、とりあえずの最終回もそれなりにこなした。あの町で私は匿名の存在だったように思う。私の名前を知っている顔見知りはどれほどいたんだろうか。少なくとも私たちにだけワインをなみなみのコップで出してくれる焼肉屋のお兄さんは、私のことは飲みっぷりだけで覚えていたはずだ。

反対に、私が外に出るたび出くわすあの犬の名前は知らないままだった。毛並みと尻尾の感じで「黒棒」と脳内で呼んでいたが、合っていたかい。私と生活リズムが同じなのはきみだったのか、きみのご主人だったのか。

 

ひとり暮らしの最後の客人は大学の仲間のKが来た。いつも通り、答えの出ない話と、どうせ当たらない展開予想と、夜通しのアニメ視聴をやる。賢狼ホロの台詞回しに身を焦がして変な声が出た。

 

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上板橋の私室。K帰宅直後の早朝に